本日、令和3年(行ヒ)第285号行政措置要求判定取消国家賠償請求事件の最高裁判決が言い渡されました。本件は、経済産業省に勤めるトランスジェンダー女性(以下:トランス女性)職員が、勤務するフロア及びその上下階合わせて3フロアの女性トイレの使用を制限する人事院判定は違法だとして国を訴えた裁判です。判決は、裁判官5名全員一致で人事院判定のうち、トイレの使用制限に関する部分について、判定前後の事実経過を踏まえて「裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法」と判断する内容でした。TransgenderJapanはこの判決を歓迎します。
判決文の後半部分には各裁判官の補足意見が記載され、総ての裁判官が「自認する性別に即して社会生活を送る」ことを「重要な利益」「切実な利益」と位置付けています。その上で、その他の女性職員が抱くかもしれない違和感・羞恥心等を考慮した「激変緩和措置」として、一定期間の区別的取り扱いについては合理性を認めています。ただし、「誤解に基づく不安などの解消のためトランスジェンダーの法益の尊重にも理解を求める方向で所要のプロセスを履践することも重要である」と明記され、トランスジェンダーについての理解を増進することを目的とした研修や教育の実施、及び、区別的取り扱いの軽減・解除が期待されています。だからこそ、その一切を行わずに区別的取り扱いを続け、当該トランス女性職員に性別適合手術の推奨を反復するばかりだった本件について「一方的な制約を課すものとして公平性を欠くものといわざるを得ない」と結論づけられました。これらの補足意見は、この判決を個別事案に対する判断から共生の考え方の標準へと昇華する役割を果たしています。
さらに、宇賀克也裁判官の補足意見は「身体への侵襲が避けられず、生命及び健康への危険を伴うものであり、経済的負担も大きく、また、体質等により受けることができない者もいるので、これを受けていない場合であっても、可能な限り、本人の性自認を尊重する対応をとるべきといえる」と、性別適合手術、ひいては「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が規定する性別変更要件のあり方についても大きく踏み込んでいます。
現在、LGBTQ+とりわけトランスジェンダーに対する「感覚的・抽象的」な差別言説が吹き荒れ、立法府においてさえ、その不利益が著しく軽視される傾向があります。性別変更要件のうち手術要件についての最高裁大法廷憲法判断をはじめ、今後相次ぐであろうLGBTQ+の人権に関わる法的な判断においても、本件に倣った真摯な検討がなされることを司法に望みます。合わせて、立法やその運用場面において、このような司法判断が活かされることを望みます。
最後に、本件を提訴し、トランスジェンダーへの差別や偏見に立ち向かってきた原告であるトランス女性職員の方に敬意を表します。
2023年7月12日
TransgenderJapan
共同代表 浅沼智也 畑野とまと