11月6日、「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会(以下、刻む会)」共同代表の井上洋子さん、社民党の大椿ゆうこ議員、そして福島みずほ議員による記者会見が衆議院第二議員会館において行われました。この記者会見にTGJPメンバーが参加しましたので、簡単に報告をします。
長生炭鉱は山口県宇部市でかつて操業していた海底炭鉱です。海岸から海底地下にむけトンネルが掘られ、石炭の採掘が行われていました。そして戦時下の1942年2月3日の朝、1キロ沖合の坑道(トンネル)内に海水がなだれ込む水没事故(水非常)が起き、183名の坑夫たちが亡くなりました。亡くなった方の7割に及ぶ136名は朝鮮人労働者でした。刻む会のHPには「犠牲者は今も暗く冷たい海に眠ったままです」と書かれています。事故から82年経った現在も、亡くなった方々の遺骨は引き揚げられていません。
刻む会は地元山口のみなさんを中心に、水非常が歴史から葬り去られることのないよう、資料を集め、追悼碑を建て、そして遺骨収集を目標に活動してきた団体です。これまでも、地元行政や政府へ遺骨収集へのはたらきかけをおこなってきたそうですが、行政はこれにこたえていません。また、ご遺族の高齢化も進んでいます。さまざまな経緯があり、現在、刻む会は自力で坑道に入り遺骨収集を試みています。政府は、水に沈んだ坑道のなかに実際に遺骨があるか分からない、その位置も分からないことを、なにもしない言い訳にしています。刻む会の潜水調査実施は、ひとかけらでも遺骨を引き揚げそれを示すことで、収集が可能であること、政府こそが責任を持ってこれに取り組むよう、さらに求めるためのものです。
今回の記者会見は、同日厚労省人道支援室へ要請を行った直後に行われました。政府はあいかわらず対応を表明していないとのことですが、刻む会の示した遺骨収集の実現性についてしっかりと受け止め、これを放置しないでいただきたいです。そしてTGJPは、刻む会の活動主旨に賛同し、これに連帯を表明します。
この水非常に限りませんが、戦前の植民地体制のもとでは、多くの朝鮮人や中国人、その他外国人が日本側から過酷な労働を強いられ亡くなっています。そして墓碑もつくられないまま、名もないまま、忘れ去られている事例が多くあります。それはそこに差別があったという歴史です。長生炭鉱の遺骨収集を政府が放置していることは、日本社会が差別を長く温存してきたことを示しています。差別は、その攻撃対象が死んでもなお差別を続けます。そして、死んだ者の尊厳をあいかわらず踏みにじることで、何度も殺すのです。記者会見に参加した遺族の方の言葉は、このことをよくあらわしていました。
長生炭鉱の遺骨収集がこれまで進まなかった背景には差別があります。差別とは、強者の側から、虐げても構わないと考える者たちへ向け行うものです。そうすると差別を受ける側からの抵抗は、まず圧倒的な力の差の前に立ち尽くすことになります。立ち尽くしながらも諦めず、抵抗の力を大きくしていくことが求められます。その差別の局面の当事者だけでは、その抵抗の力はなかなか大きくなりません。抵抗しても無視されることが続きます。そのため抵抗運動は、当事者以外の力を必要とし、外に連帯を呼びかけてゆくことになります。そのとき、他の差別を受ける立場の者のなかから、連帯するひとがあらわれます。それは、自らも闘っているからこそ、呼応できるのです。自らの立場に引き寄せて感じるものがあるため、反応するのです。
差別に抵抗することは、もちろんこのとおりだけではありません。差別をする側に含まれるひとは、マジョリティだからこそ差別に反対する必要があります。差別をする側の内部で、その差別が間違っていると理解することでやっと事態は動いてゆくのです。この社会のマジョリティこそが、差別をやめる・やめさせなければならないですし、実際にその力をもっています。力をもっているからこそ、マジョリティは差別に取り組む責任があるのです。
わたしたちTGJPは、トランスジェンダーを中心に当事者ではない立場も含めたメンバーが集まり、トランスジェンダーの権利回復のために活動する団体です。トランスジェンダー自身が差別のなかに置かれており、だからこそ他の差別に連帯していきたいと考えています。そして同時に朝鮮人差別に対しては、差別をする日本人の側に立っています。だからこそ、差別をする側の責任として、これに取り組まねばならないと考えています。差別をする/差別を受ける立場は、状況によって入れ替わります。この交差性に注目することは、差別の構造が絶対的なものではないことを示しています。もし、わたしたちが「トランスジェンダーは差別を受ける者」という立場しか見ていなければ、被害者であることだけを謳い活動することになるでしょう。ですが、それは間違っています。それでは、見落としてはならないものを、見落としてしまいます。そうではない立場を自覚しながら、わたしたちは他の差別問題に注目し、紐帯を築きたいと考えています。また、それが自分たちの抵抗の力をより強くする術だと、確信しているのです。
差別に反対するなかで、「あらゆる差別に反対します」と表明することは間違っていませんが、そう表明することでなにかが叶うわけではありません。わたしたちが出会うひとつひとつの差別の問題について、話を聞き、知り、勉強していかねば、実際には個々の差別特有の問題を理解していくことはできないでしょう。そのような意識をもって、今回の記者会見に参加しました。
刻む会は、来年の1月末から2月にかけて、次の潜水調査を予定しており、また現地では追悼式が開かれる予定です。わたしたちTGJPは、遺骨収集の実現に向けわずかでも力になれるよう、引き続き刻む会に連帯していくつもりです。(文責 谷口岳)
参照リンク:この問題については、ぜひ以下のリンクなどから詳細を知ってください。
長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会 https://www.chouseitankou.com/
大椿ゆうこ参議院議員・社民党副党首ブログ https://ohtsubaki.jp/241106_cole-mine/
NoHateTV Vol.293 – 死者に会いに行く〜長生炭鉱の水非常から82年 https://www.youtube.com/live/CNCrE56baTc?si=rDhFYcJiGbBI3nhl