本年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」(以下、本震災)による犠牲者は5日14時までに94名、安否不明者222名と報告されています。犠牲となったみなさまに謹んで哀悼の意を捧げるとともに、安否不明者の方々の無事を祈念します。そして、すべての被災者のみなさまに心からのお見舞いを申し上げます。
現在、SNS上では本震災に便乗した差別言説が流布されています。かつて関東大震災後の朝鮮人・中国人大虐殺の引き金となった「朝鮮人が井戸に毒を入れた」や、「外国人窃盗団がやってくる」といった外国人差別に加えて、トランス差別言説もあらわれています。まずもって、震災という混乱状況をさらに撹乱し、マイノリティを追い込む差別言説全体に強く抗議します。平時から存在する差別は、非常時においてより一層マイノリティを攻撃します。多くの人にとって負担となる状況のしわ寄せは、そのなかで生きる少数者・弱者へことさらに向かうという認識を、改めて共有していただきたいです。
この度のトランス差別言説はX(旧Twitter)でトランス女性を名乗るアカウントによる「トランス女性にもナプキンは必要だよ。精神安定剤と一緒。私は生理ないけどナプキンは持ってるよ。」という投稿を槍玉にあげ、トランス女性がシス女性から生理用品を奪い取っているかのように描くものです。そもそも、「生理ない」けど「精神安定剤」として「ナプキンは必要」というのはこのアカウントの個人的な見解であり、これをトランスジェンダー全体の考え方であるように語るのは間違いです。なかには、避難所における女性の安全を最優先するという正義感に基づきながらも、この個人的な見解への批判とトランス非難を混同している人がいます。避難所における女性の安全が軽視されてきたことも事実ですし、正義感をもって発信したい気持ちもわかりますが、このように個人の行為を属性全体に置き換えて非難し、差別の正当化を図ることはヘイトスピーチの典型的なパターンです。ヘイトスピーチの増幅に加担する限り、その正義感は避難所における女性の安全の向上には寄与しません。
事実として、経血や腸液を吸収するために生理用品を必要とする人はシス女性、トランス女性、トランス男性、ノンバイナリーのなかに幅広く存在しています。そして、避難所における生理用品配布は、物資に限りがあることを前提に、可能な限り必要な人に必要な量が届くことが原則です。そこにシス・トランスという属性による優劣をつけることはまさに差別ですし、まるで生理用品を必要とする人がシス女性以外にいないかのような誤解が広まることになり、避難生活を送るトランスジェンダー、ノンバイナリー当事者に余計な困難を負わせることになります。このような言説の流布は今すぐやめてください。
現在、余震が続く中で避難所運営に尽力してくださっているみなさまに深く敬意を表します。避難生活を送る方のなかには、ジェンダーの如何にかかわらず生理用品を必要とする人、高齢者を中心に尿とりパッドを必要とする人がいます。そして、その必要量は個々人で異なります。ですので、できる限り、生理用品や尿とりパッドをトイレなどプライバシーが確保される場所に設置し、必要な人が必要な量を使うことができるようにしていただきたく存じます。合わせて、女性用トイレのみならず、男性用トイレにもサニタリーボックス(生理用品や尿取りパッドを捨てられる箱)を設置していただけますと幸いです。
2024年1月6日
TransgenderJapan