6月9日(金)に開催される衆議院内閣委員会においてLGBT理解増進法案が審議され、即日委員会採決される見通しとなっています。一部報道によれば、週明け13日(火)にも衆議院本会議での採決が行われるとのことです。このような審議日程の開始を前に、広く共有しておきたい経過があります。
この度のLGBT法案(LGBT差別禁止法案、LGBT理解増進法案をまとめてこのように表記します)の争点化の契機は去る2月3日の荒井勝喜首相秘書官(当時)による同・両性愛差別発言でした。秘書官の更迭だけでは収まらない世論の批判に対して、萩生田光一議員ら自民党内から「LGBT理解増進法の成立に向け、積極的な議論を行う」ことが表明され、公明党や日本維新の会も同調していきました。
これに対し、私たちは理解増進法ではなく差別禁止法を求める立場から、2月14日に緊急で院内集会を開催し、多くの当事者、アライ、与野党議員に結集していただき、「理解増進法ではなく差別禁止法の制定を求める共同声明」を採択しました。
院内集会の後、この共同声明を渡すために岸田文雄総理大臣及び森まさこLGBT理解増進担当首相補佐官にアポイントメントを試みました。しかしながら、こちらが確認連絡をするたびに「調整中です」「担当部署に伝えました」という返事があるばかりで、結局渡すには至らず、次善の策として6月9日付けで内容証明郵便を送ることにしました。
2月以降、LGBT法案に関する「議論」の体裁でLGBTQ+、とりわけトランスジェンダーに対する憎悪扇動、差別言説がSNSという限定された空間を超えて、現実社会に噴出する事態となりました。宗教右派やいわゆるTERFといったこれまでもトランス差別言説を振り撒いてきた主体に加え、中核派、レイシスト勢力までもが言説の流布に参入しています。そして、保守の立場にある国会議員までもがその言説を積極的に用いています。
一方、LGBT法案自体はその間、後退を重ねました。もともと2021年に超党派のLGBT議連で合意したLGBT理解増進法案(以下、合意案)がありました。ところが、5月12日に公表された自民党修正案(以下、修正案)は合意案に比べて人権水準が後退するものでした。これに対して私たちは「LGBT法案の後退に抗議します」として緊急院内集会を5月16日に開催しました。ところが、その後に提出された日本維新の会・国民民主党による独自案(以下、独自案)は、2000年代初頭の性教育バッシングや国際的な反LGBTQ+言説のトレンドを取り入れ、さらに後退した内容となっています。
これら3案が内閣委員会において一括審議され、修正案を軸に独自案の内容を反映した案が採決されそうになっています。LGBTQ+に対する差別問題を解消するという立法事実に照らせば、もはやこれ以上ないほどに「骨抜き」となり、LGBTQ+の人権回復の妨げにさえなりうる法案です。そんな法案に対してさえ、上述のトランス差別言説を流布する主体たちは「子どもや女性に悪影響を与える」などとして廃案を求める動きを起こしています。
衆議院内閣委員会においては、この約4ヶ月間の法案の後退ぶり、特に修正案と独自案についてはLGBTQ+ に対する差別問題を解消するための法案にLGBTQ+に対する差別的眼差しが多分に含まれていることを総括し、また、差別禁止立法の立法事実がかつてなく明確になっていることを確認する必要があります。その上で、改めて与野党の相互妥協の交点である合意案に立ち返った審議を求めます。
反LGBTQ+の立場から即日採決に抗議し、LGBT法案を葬り去ろうという動きもあります。私たちはそうではなく、LGBTQ+がこの日本社会で置かれている状況とマイノリティの人権回復を基盤とする充実した議論を求めます。
合わせて、ここまでの文書の趣旨に賛同してくださるLGBTQ+コミュニティの仲間のみなさん、アライのみなさん、そうかもしれないみなさん、どうか衆議院内閣委員会の委員たちに電話、メール、ファックスで声を届けてください。LGBTQ+は虹色の旗(レインボーフラッグ)さえ振っておけば喜ぶようなマイノリティではありません。これは個々の人権の問題です。