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緊急:入管法改正法案の廃案を求める声明

今国会に提出されている「入管法改正法案」について、その内容がとても酷い状況であり、これが通ってしまうことは看過できないため、次の声明を関係各所に送付しました。

入管法「改正」法案の廃案を求める緊急声明

  出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)の「改正」法案が本日4月26日にも衆議院法務委員会で採決されうる状況になっています。私たちTransgenderJapan(以下、弊団体)は「ジェンダー平等をめざす究極的な社会的公正の構築」を理想〈ヴィジョン〉に掲げて活動しています。その立場から、この度の入管法「改正」法案は、出入国在留管理庁(以下、入管庁)が示す立法事実や法案の内容が日本社会における外国籍住民のうち、いわゆる非正規滞在となっている人々及び難民申請中の人々を犯罪者予備軍と見做し、その尊厳を著しく踏み躙るものであることに強く危機感を抱き、廃案を求めます。

 弊団体の使命〈ミッション〉は「日本におけるすべてのトランスジェンダーのための安心でき、また、お互いをサポートできる環境をつくる」ことです。世界には性的指向・性自認を理由に犯罪者として取り扱われたり、迫害されたりする国家が約70カ国あります。トランスジェンダーはLGBTQ+の中でも最も埋没することが困難であり、攻撃の矢面に立たされやすい存在です。事実、わかっているだけで毎年約400名もの人々がトランスジェンダーであるという理由で殺害されています。トランスジェンダーであることが理由で難民となる人々が確かにいるのです。

 現行の日本の入管・難民行政は、難民にとって「安心できる環境」とは言い難いものです。ただでさえ、入管収容施設では適切な医療へのアクセスが阻まれている実態があり、トランスジェンダーの場合はトランスジェンダーであるために本人が求める医療を受けられない問題があります。トランスジェンダーとして適切なホルモン療法や精神的なケアなどが受けられなかった事例が報告されています。また、トランスジェンダー女性であることを理由に他の女性から隔離され、ほとんど居室(独房)から出ることを許可されなかった事例や、トランスジェンダー女性であるにも関わらず男性専用の施設に収容された事例もあります。入管収容施設の中でトランスジェンダーは“自分として生きる権利”を剥奪され続けています。

 難民認定をめぐる問題もあります。日本は1981年に難民条約に批准しました。国際的には、欧米諸国を起点にLGBTQ+であることを理由とする難民の庇護が1990年代から広がっていきました。しかしながら、日本でLGBTQ+であることを理由とする難民認定がはじめてなされたのは2018年であり、世界の動きから大きく遅れています。日本が難民条約に批准してから2018年までの37年間にLGBTQ+であることを理由とする難民申請がどのくらいあったのかについては明らかになっていません。

 ところで、入管庁は「入管法改正の必要性」の第一項目に「送還忌避問題」を挙げています。「令和3年12月末時点で、3,224人(令和2年12月末時点よりも121人増)に達しており、中には、日本で罪を犯し、前科を有する者もいます.」と明記し、「送還忌避者」のうちの「前科を有する者」についてのグラフをPDF資料として公開しています。「送還忌避者」は犯罪者予備軍であるという像を刷り込むには十分な書き振りです。特定の属性と犯罪を結びつけて語り、その属性を有する集団に対する憎悪を扇動したり、排除したりすることは紛れもなく差別です。また、「送還忌避者」とされている人々が就労を禁止されていたり、国民皆保険制度が適用されていなかったりといった無権利状態に置かれていることには一切触れていません。犯罪歴の問題を極大化して語ることは事実の歪曲です。トランスジェンダーについては現在「女性や子どもの安全を脅かす存在」として犯罪と結びつけられた像が流布されています。いわゆる非正規滞在となっている外国籍住民の方々についての「前科を有する者」「送還忌避者」という像の流布は私たちが置かれた差別の状況と重なります。入管庁という国の行政機関がその旗振りをしていることに対して強く抗議をします。

 現行の入管法及び入管法「改正」案、並びに日本の入管・難民行政のあり方は国際人権基準からも大きく逸脱しています。世界人権宣言(1948)を踏まえて採択された性的指向と性同一性に関わる国際人権法の適用に関わる原則(ジョグジャカルタ原則:2006)の前文には「万人は尊厳と権利において自由で平等であり、性別、国籍、人種、皮膚の色、言語、宗教、政治的またはその他の意見、民族的または社会的出身、財産、出生、あるいはその他の身分によって差別されることなく人権を享受する権利があることを再確認する。」と明記されています。ここでは、平等と差別を受けない権利・生命の権利(第1原則人権の普遍的享受への権利)などが保証されています。暴力、差別や他の危害から国家に保護される権利(第2原則法の下の平等と差別を受けない権利および第3原則法の下に承認される権利)、身体的、精神的な自律性(第17原則到達可能な最高水準の健康への権利)、犯罪化・処罰からの自由(第7原則恣意的拘束からの自由)、収容施設における人道的扱い(第9原則勾留中人道的に扱われる権利)、仮放免者の就労の制限(第12原則仕事を得る権利)といった入管法及び入管・難民行政において侵害が疑われる諸権利が列記されています。これらの諸権利は日本国憲法においても権利として明記されています。

 LGBTQ+に対する人権侵害に対処することを念頭において採択されたジョグジャカルタ原則と日本の入管法及び入管・難民行政との間に緊張関係が発生している以上、入管をめぐる問題は「ジェンダー平等をめざす究極的な社会的公正の構築」をヴィジョンに掲げる弊団体として声をあげなければならない問題です。この緊張関係をより一層深刻なものとするこの度の入管法「改正」案については、修正ではなく廃案を求めます。合わせて、世界人権宣言、ジョグジャカルタ原則、そして日本国憲法に基づいた抜本的な入管法の見直しと入管・難民行政の改善を求めます。


2023年4月26日

TransgenderJapan

共同代表 浅沼智也 畑野とまと

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